エピゲノム異常IGF2遺伝子LOIを標的とした癌リスクを低減する治療戦略

IGF2遺伝子は父方アリルが発現し母方アリルはサイレンシングしているインプリンティング遺伝子であり、両アリルが発現するLOI(loss of imprinting、ゲノムインプリンティング消失)は一般人口の5-10%で認められるエピゲノム異常である。発現量がたかだか2倍に上昇するこの異常により、大腸腫瘍発症頻度は5倍高くなる。

ゲノムサイエンスの金田篤志特任准教授は留学先であったJohns Hopkins大学での研究において、エピゲノム異常IGF2 LOIに対してIGF2シグナルを阻害することで癌リスクを低減する癌予防戦略をマウスモデルにより提唱した。

腸管腫瘍の発生部位である腸陰窩における遺伝子発現を解析すると、細胞増殖関連遺伝子発現がLOI陰性に比べてLOI陽性マウスで有意に高く、LOI陽性の腸管上皮がより未分化な状態であると提唱した前研究(Science 307:1976-8, 2005)をサポートする結果であった。マウスにIGF2シグナル阻害剤を投与すると逆にLOI陽性マウスの方が発現が低くなった。LOI陽性MEF細胞をIGF2で刺激すると、低濃度IGF2刺激によるAKTシグナル伝達がLOI陽性細胞特異的に増強しており、シグナル阻害による影響もLOI陽性細胞で強く見られることがわかった。そのメカニズムとして、IGF1受容体の発現上昇などが考えられた。

LOIマウスに発癌剤Azoxymethaneを投与すると、大腸の前癌病変aberrant crypt foci (ACF)の数がLOI陽性マウスにおいて有意に増加した。IGF2シグナル阻害剤を発癌剤投与前からマウスに投与すると、LOI陽性マウス特異的にACF数が減少し、驚くべきことにLOI陰性マウスよりもACF数が少なくなった。

以上、IGF2 LOI陽性の場合IGF2刺激への応答が鋭敏になっており、IGF2シグナルを阻害することでLOI陽性による高い癌リスクを低減することが可能と考えられた。

Atsushi Kaneda, Chiaochun J. Wang, Raymond Cheong, Winston Timp, Patrick Onyango, Bo Wen, Christine A. Iacobuzio-Donahue, Rolf Ohlsson, Rita Andraos, Mark A. Pearson, Alexei A. Sharov, Dan L. Longo, Minoru S. H. Ko, Andre Levchenko, and Andrew P. Feinberg.

Enhanced sensitivity to IGF-II signaling links loss of imprinting of IGF2 to increased cell proliferation and tumor risk.

Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Dec 26;104(52):20926-31. Epub 2007 Dec 17.

PubMed

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