国際共同研究により明らかになった胃がんの遺伝子ネットワーク「Gastrome」

ゲノムサイエンス分野では、アジアにおいて主要な位置を占める胃がんの分子病態を解明することを目的として、University of Melbourne、Peter MacCallum Cancer Centre(オーストラリア)、University of Hong Kong、Queen Mary Hospital(香港)、National Cancer Centre(シンガポール)、Yonsei University、Yonsei Cancer Center(韓国) と連携して2004年より「アジア太平洋胃がんゲノミクスコンソーシアム(Gastric Cancer Genomics Consortium, GCGC)」を設立し、共同研究を開始しました。

その最初の成果として、星田研究員(現在Broad研究所留学中)が中心となり、各施設が有する胃癌に関する大規模遺伝子発現データを統合することにより、地域や人種の違いを超えて共通に存在する胃がんの遺伝子共発現ネットワーク「Gastrome」を明らかにし、Cancer Research誌に出版されました。

Gastromeは機能単位の遺伝子群(モジュール)の階層的な連結から構成されており、その中でも腸上皮の分化に関連するモジュールの発現の強さにより、胃がんを大別できることが分かりました。興味深いことに、このモジュールの発現と、病理学的に広く使われている分類である「腸上皮型胃がん」との間には強い関連が見られませんでした。また、胃がんの予後に関連することが知られているPLA2G2Aと、腸上皮の形成に関与する受容体型チロシンキナーゼであるEPHB2の発現に密接な関連があることを発見しました。

これらの知見は、胃がんの分子病態に基づく分類と、予後を改善するための鍵となる分子メカニズムの解明に寄与することが期待されます。また、これらは、それぞれのデータを個別に解析した際には明らかではなく、多施設間の大規模なデータの集積とバイオインフォマティクスを駆使した解析の有効性を示しています。

Aggarwal A, Li Guo D, Hoshida Y, Tsan Yuen S, Chu KM, So S, Boussioutas A, Chen X, Bowtell D, Aburatani H, Leung SY, Tan P.
Topological and functional discovery in a gene coexpression meta-network of gastric cancer.
Cancer Research 2006 66(1):232-41.
PMID: 16397236

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