大腸がん治療の奏功率予測アルゴリズムの開発

転移を伴う手術困難な大腸癌に対する抗がん剤を用いた治療に、FOLFOX療法 と呼ばれるいくつかの抗がん剤を同時に利用する方法がある。しかし、その奏功率は約50%であ り、薬剤がもたらす重度の副作用を考えれば、奏功率の予測と治療の個別化が望まれるもので ある。今回、ゲノムサイエンス分野の辻特任助教(駒場オープンラボラトリー)、緑川研究員 (日本大学板橋病院)らは、Random Forests法を用いた遺伝子発現解析によって、80.0%の感度 と92.8%の特異度を実現する予測アルゴリズムの構築に成功し、British Journal of Cancer誌 に発表した。

遺伝子発現情報をもとに薬剤の感受性を予測するこれまでの研究の多くは、 一般的な機械学習アルゴリズムを用いている。しかし、これらのアルゴリズムは、サンプル数 が説明変数(ここでは遺伝子)の数を大きく上回るデータセットに対して設計されたものであ り、過学習(過剰適合, overfitting)を引き起こし、よい学習モデルを作れない可能性があ る。今回、我々はこの問題に対応するため、Random Forests法を用いて遺伝子発現情報から薬剤 の効きを予測するモデルを構築した。Random Forests法は、説明変数の選択やサンプルの分類 のための機能を内包していることが特徴で、本論文では一つのデータセットに対し4回Random Forestsを適用することで、変数の選択と外れ値となるサンプルの除去を実現した。こうした解 析によって、シスプラチンの耐性と関連することが知られているSMURF2を含む、FOLFOX療法の 感受性と関連する14の遺伝子を選び出し、比較的高い予測性能を有するモデルの構築に成功した。

本研究は、ゲノムワイドなデータを使った予測モデルの構築に、Random Forests法が有用であることを示すものであり、こうした方法論の個別化医療への応用が期待される。

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