細胞分化を制御する脳腫瘍抑制遺伝子DACH1の同定

ゲノムサイエンス分野の渡辺亮研究員(現京都大学iPS細胞研究所)及び東京大学医学系研究科大学院生の荻原英樹(脳神経外科、現国立成育医療研究センター病院)らは、膠芽腫においてホモ欠失を示す新規腫瘍抑制遺伝子DACH1を同定した。

本研究は、最も予後の悪い脳腫瘍の一つである膠芽腫の発症のメカニズムを明らかにすることを目的に行われた。SNPジェノタイピングアレイ及びハイスループット質量分析装置によるDNAコピー数解析によって、膠芽腫で染色体13q21で特異的にホモ欠失を示す領域を同定した。このホモ欠失領域に含まれる唯一の遺伝子であるDACH1が、脳腫瘍細胞の増殖を低下させ、皮下及び脳室内での腫瘍形成を抑制することを示し、DACH1が膠芽腫の腫瘍抑制遺伝子であることが示された。DACH1は腫瘍幹細胞を分化させると共に、幹細胞維持に必須な因子である繊維芽細胞増殖因子FGF2の発現を直接抑制することが示された。DACH1を過剰に発現させた脳腫瘍細胞株は造腫瘍能が低下するが、FGF2の過剰発現によって造腫瘍能が回復された。このように、DACH1の欠失によるFGF2の過剰発現が腫瘍幹細胞を維持を促し腫瘍を増悪させることが示され、本研究ではDACH1が「神経分化の守護神」として腫瘍化を抑制するモデルを提唱している。以上の結果は米国科学アカデミー紀要オンライン版(7/12付)に掲載されました。

Watanabe A, Ogiwara H, et al. Homozygously deleted gene DACH1 regulates tumor-initiating activity of glioma cells. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011

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