研究紹介

教授 油谷浩幸

次世代シーケンサーやマイクロアレイ解析を用いて包括的に取得したゲノム、エピゲノム、トランスクリプトームなどの多重な生命情報を統合することによって、生命現象および癌などの疾患をシステムとして理解することを目指しています。大量情報の処理は生命科学が直面する大きな課題であり、計算生物学研究者との連携が必須であり、両者の融合した研究環境作りを目指しています。

パーソナルゲノム

次世代シーケンシング技術の進歩は個人のゲノム情報を決定することを可能にしました。とりわけ、がん細胞のゲノムには多くの遺伝子変異が蓄積しており、癌遺伝子の活性化や癌抑制遺伝子の不活化をもたらすことが細胞の癌化、悪性化につながると考えられます。患者さん毎に生じる遺伝子変異は異なるため、全ての遺伝子変異を明らかにすることが出来れば、発癌メカニズムの解明につながると期待され、現在、肝細胞癌や膵臓癌のゲノム配列解析を進めています。一部のプロジェクトは国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)に参加して推進しています。

これまでにヒトゲノム配列中のコピー数を定量するアルゴリズムGEMCA (Genotyping Microarray based CNV Analysis)を開発し、ゲノムコピー数の多様性(CNV)の全ゲノムマップを作成しました(Nature 2006)。さらにアレル間の遺伝子発現多様性を検出する技術開発を進めることにより、インプリンティング現象やアレル特異的な転写制御機構の解明を進めています。

エピゲノム

幹細胞から成熟した細胞への分化プロセスとはエピゲノム情報の変化に他なりません。エピゲノムとは塩基配列の変化は伴わず、DNAメチル化やヒストンアセチル化、メチル化など後天的に加わった化学修飾によって形成される「細胞レベルの記憶」であるといえます。エピゲノム情報は細胞分裂を経ても安定的に保持される一方、疾患、外界からのストレスによって変動するエピゲノム修飾もあり、次世代シーケンシング技術により、クロマチン免疫沈降、DNAメチル化、クロマチン相互作用、non-coding RNAなどについて包括的解析を進めています。

トランスレーショナル研究

これまでにマイクロアレイを用いた包括的遺伝子発現解析から、がん細胞で選択的に高発現している遺伝子を同定することによって、がん細胞を選択的に攻撃するための標的分子の探索を進めてきました。細胞表面の分子については、細胞障害活性を有するモノクロナル抗体を作成することにより医薬品開発へと展開しています。 がん細胞ゲノムに生じた遺伝子変異やエピゲノム変異は正常細胞には存在せず、がん細胞のみが保有することから癌治療の分子標的、診断マーカーとして注目されており、次世代シーケンサーを用いた変異解析やトランスクリプトーム解析によって新たな創薬標的分子の探索を進めています。