肝細胞癌進展に関わる染色体変異の同定

我が国で死亡原因の第3位を占める肝細胞癌は慢性肝疾患を発生母地として早期肝癌が出現し、経過とともに腫瘍の一部が脱分化して進行肝癌となる。この多段階発癌の過程で分化度の低い中分化型肝癌を包含する高分化型肝癌、すなわち結節内結節像を呈する肝細胞癌(nodule in nodule, NIN)という腫瘍形態がしばしば観察されるが、このNINは同一のオリジンからの癌進展の経時的変化を解析するのに最も適した研究材料の一つでもある。
緑川研究員(帝京大学外科)らは東京大学肝胆膵外科との共同研究により、NIN及び早期肝細胞癌と進行肝癌を用いてSNP解析アレイを用いた包括的アレル別コピー数解析を行い、肝発癌の早期、及び進展の段階で変化する染色体領域を同定した。GIM (Genome Imbalance Map)アルゴリズム(Ishikawa, 2005)を用いることにより、アレル別コピー数解析は正常細胞の混入が避けられない臨床検体においてもホモ欠失領域の同定が可能である。8p23.2領域のCSMD1遺伝子に高頻度に両アレルの欠失が認められることを確認し、同遺伝子はアレルの欠失に加えてプロモーター領域のメチル化によっても遺伝子発現レベルが低下していることを明らかにした。CSMD1は頭頸部領域でも癌抑制遺伝子としての可能性が報告されているが、その発現低下が肝細胞癌の進展に寄与している可能性が示された。本研究成果はHepatology誌オンライン版に掲載された。

Midorikawa Y, Yamamoto S, Tsuji S, Kamimura N, Ishikawa S, Igarashi H, Makuuchi M, Kokudo N, Sugimura H, Aburatani H. Allelic imbalances and homozygous deletion on 8p23.2 for stepwise progression of hepatocarcinogenesis. Hepatology. 2008 Oct 24. [Epub ahead of print]

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