慢性HBV感染患者ではB型肝炎ウイルス(HBV)の肝細胞ゲノムへの組込みは、がん化のドライバーとなる遺伝子の転写を変化させ、肝細胞がんの発症へ繋がることが知られていますが、HBV既感染患者ではウイルスの関与については明らかではありませんでした。
今回、ゲノムサイエンス分野の辰野健二、永江玄太、山本尚吾らは日本大学医学部消化器外科の緑川泰准教授、高山忠利教授との共同研究で、ウイルスキャプチャーシーケンス法によりウイルスゲノムのゲノムへの組込みを解析しました。HBV既感染患者の肝細胞がんにおいても慢性HBV感染患者と同様にTERT、KMT2B、CCNA2、およびCCNE1などのがん化のドライバー遺伝子へのウイルスの組込みが起こり、これらの遺伝子の転写を活性化している症例が少なくないこと明らかにしました。このことは、自然退縮またはB型肝炎治療によりHBs抗原が血液中から消失したのちにおいても、依然として肝細胞がんを発症するリスクがあることを示しています。またアデノ随伴ウイルスは、病原性を持たないウイルスと考えられてきましたが、近年AAV2の肝細胞がんゲノムへの組込みが肝がんの1-2%程度で見つかることが報告されています。今回はAAV2に対してもウイルスキャプチャーシーケンスによる解析を実施し、HBVと同様に、がん化のドライバー遺伝子であるCCNE1, CCNA2への組込みが起き、これらの遺伝子の転写を活性化していることを示しました。
雑誌名:Clinical Cancer Research
著者:Kenji Tatsuno, Yutaka Midorikawa, Tadatoshi Takayama, Shogo Yamamoto, Genta Nagae, Mitsuhiko Moriyama, Hayato Nakagawa, Kazuhiko Koike, Kyoji Moriya and Hiroyuki Aburatani
October 15 2019 25 (20) 6217-6227;
10.1158/1078-0432.CCR-18-4041