ES細胞は、初期胚に由来する多能性幹細胞であり、in vitroでの分化誘導系は細胞系譜決定機構の解析に適した系である。これまでES細胞から各胚葉への分化誘導する技術は多数報告されているが、一つの系で三胚葉(内胚葉・中胚葉・外胚葉)への分化を同時に観察できる分化誘導系の報告はこれまでなかった。今回、熊本大学発生医学研究センターの粂昭苑教授、白木伸明博士らが開発したES細胞からの三胚葉の分化誘導系を用いて、ゲノムサイエンスの砂河孝行研究員は分化誘導した各細胞についてマイクロアレイ解析を行い、各胚葉のマーカーとなる遺伝子の発現を確認した。これまで、粂教授らは、中胚葉由来の培養細胞株M15細胞を用いてES細胞から内胚葉組織である膵β細胞及び肝細胞を効率的に分化誘導する系を報告しており、今回M15細胞と液性因子の添加を組み合わせることで内胚葉のみならず中胚葉、外胚葉を効率的に分化誘導することに成功した。さらに、長期培養を行った結果、神経系ではニューロンのみならずアストロサイトやオリゴデンドロサイトへの分化、中胚葉系では骨や脂肪細胞への分化が確認されており、M15細胞を用いて分化誘導した細胞は、成熟した神経及び中胚葉への分化能を保持していることが明らかとなった。本研究により開発された分化誘導系やそこから得られる三胚葉を用いることにより、DNAメチル化をはじめとするエピゲノム転換など発生初期における生命現象のさらなる解明が期待される。
Nobuaki Shiraki, Yuichiro Higuchi, Seiko Harada, Kahoko Umeda, Takayuki Isagawa, Hiroyuki Aburatani, Kazuhiko Kume, and Shoen Kume, Differentiation and characterization of embryonic stem cells into three germ layers. Biochem Biophys Res Commun. 2009 Apr 17;381(4):694-9. Epub 2009 Feb 27.